親知らずは抜くべき?草加で判断するタイミングと抜歯前後の注意点
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「親知らずは全部抜いた方がいいのですか?」
診療室で最も多い質問の一つです。結論から申し上げると、“必ず抜く”わけでも“必ず残す”わけでもありません。 生え方・衛生状態・隣の歯への影響・将来の治療計画(矯正やブリッジなど)まで含め、個別の条件で判断します。本稿では、院長としての実臨床の視点から、「抜く/残す」を見極める基準、抜歯が必要になりやすいケース、検査とリスクの説明、抜歯前後のお過ごし方までを整理します。
目次
- 親知らずを「抜く/残す」を決める前に知ってほしいこと
- 抜歯を検討すべき典型的なケース
- 経過観察(残す)を選ぶケースと条件
- 診断と検査:レントゲン・CTで何を見ているか
- 抜歯の難易度を左右する要素(年齢・骨の状態・根の形)
- 具体的なリスクと合併症:正直にお伝えしたいこと
- 抜歯前の準備:食事・お薬・持ち物・当日の流れ
- 抜歯後の経過:痛み・腫れ・出血の“普通”と“注意”
- 仕事・学校・スポーツ復帰の目安
- よくある質問への院長回答
- まとめ:迷ったら「評価」から。最小限で本質的な介入を
親知らずを「抜く/残す」を決める前に知ってほしいこと
親知らず(第三大臼歯)は、正常に咬んで清潔を保てるなら、必ずしも抜く必要はありません。一方で、斜め・水平・半埋伏などで清掃が難しい場合、周囲に炎症が繰り返し起こり、智歯周囲炎や隣の第二大臼歯のむし歯・歯周病の温床になることがあります。判断の核心は、「今の健康と将来のリスクのバランス」です。私は、短期的な痛みの有無ではなく、数年単位での予後を基準に説明します。
抜歯を検討すべき典型的なケース
本文で丁寧に書き分けますが、視認性のため代表例を簡潔に挙げます。詳細は診断時に個別説明します。
➤ 反復する腫れ・痛み・口が開きづらい(智歯周囲炎の再発)
➤ 隣の奥歯(第二大臼歯)のむし歯・歯周骨吸収を招いている
➤ 水平・強い傾斜・深在埋伏で清掃困難、将来の炎症リスクが高い
➤ 矯正治療・咬合再建の妨げになる位置・方向
➤ 嚢胞(のうほう)様病変などX線で病変が疑われる
➤ 義歯・ブリッジ設計で長期安定を妨げる要素がある
“痛くないから様子を見る”が悪いわけではありません。ただ、隣在歯のダメージが始まっている場合、先送りは不利益になり得ます。
経過観察(残す)を選ぶケースと条件
抜歯しない選択が合理的な場面もあります。
➤ 完全萌出で上下の咬合に参加しており、清掃良好
➤ 完全埋伏で病変がなく、神経・上顎洞に近接し外科リスクが高い(慎重に経過)
➤ 高齢で合併症が多く、介入リスクが便益を上回る
➤ 将来的に自家歯牙移植などでの利用可能性を残したい(条件付き)
残す場合でも、定期的なレントゲン評価とクリーニングは前提です。状況が変われば方針も見直します。
診断と検査:レントゲン・CTで何を見ているか
パノラマX線で位置関係・根の形を把握し、必要に応じて歯科用CTで三次元的に確認します。特に下顎では、下歯槽管(下顎の神経・血管)との距離・交差、根の彎曲、骨の厚みを評価します。上顎では、上顎洞底との距離と根尖の形態が重要です。これらは合併症リスクの見積りと切開線・骨削除・分割の計画に直結します。
抜歯の難易度を左右する要素(年齢・骨の状態・根の形)
一般に、若年ほど骨がしなやかで治癒が早く、抜歯は比較的容易です。年齢が上がるにつれ、骨が緻密化し、根が太く複雑に曲がる傾向があるため、切開・骨削除・分割のボリュームが増えることがあります。難易度が上がるほど、手術時間や腫脹の可能性も上がるため、タイミングの見極めが重要です。
具体的なリスクと合併症:正直にお伝えしたいこと
断定的な「絶対安全」はありません。私が同意の場で必ずお伝えする主な事項です。
➤ 術後疼痛・腫脹・開口障害:ピークは術後2〜3日、以後軽快が一般的
➤ 出血:当日はガーゼ圧迫で止血。抗凝固薬内服中は主治医と連携し計画
➤ 感染:発熱・腫れ増悪時は早期受診。必要に応じて抗菌薬
➤ ドライソケット:血餅が失われ骨が露出する状態。強いうがい・喫煙・ストロー使用は誘因
➤ 神経障害(下顎):下口唇・オトガイ部・舌のしびれ(多くは一時的、稀に長期)
➤ 上顎洞穿孔(上顎):鼻へ空気漏れ感、必要時は閉鎖処置と術後注意
➤ 隣在歯や補綴物の損傷:保護・注意で回避に努める
➤ 縫合部の離開:清掃・刺激物回避で予防
リスクをゼロにできなくても、正確な診断・適切な術式・術後管理で最小化できます。心配事は事前に遠慮なく共有してください。
抜歯前の準備:食事・お薬・持ち物・当日の流れ
➤ 食事:直前の空腹は避け、消化の良い食事を。刺激物・アルコールは控える
➤ 服薬:抗凝固薬・糖尿病薬などは自己判断で中止しない。必要に応じて主治医と連携
➤ 持ち物:保冷剤を包むタオル、ティッシュ、必要なら替えマスク
➤ 来院:口腔清掃を済ませ、口紅・リップは控えめに(縫合糸やガーゼが滑ります)
➤ 当日の流れ:最終説明→表面麻酔→局所麻酔→切開・骨削除・分割→抜歯→洗浄→縫合→圧迫止血→術後説明
処置時間は難易度で変わります。長時間処置が想定される場合は日中枠で安全に行います。
抜歯後の経過:痛み・腫れ・出血の“普通”と“注意”
痛みは術後数時間後から強まり、2〜3日目がピーク、1週間で落ち着くのが一般的です。指示どおり予防的に鎮痛薬を内服する方が楽に過ごせます。
腫れ・青あざは体質や術式で差があり、頬の冷却は最初の24時間は短時間を間欠的に。その後は温めない方が腫れのピークを抑えられます。
出血は当日少量の滲みが普通です。清潔なガーゼを20〜30分しっかり咬むと止まります。唾液に赤みが混じる程度は異常ではありません。
次の症状は早めの連絡・受診をお願いします。
我慢できない痛みが3日以降も増悪
口臭と痛みが強く、穴から白っぽい骨が覗く(ドライソケット疑い)
連続する大量出血、熱・倦怠感の増悪
しびれ感が強く出た場合(経過観察・対応を相談)
仕事・学校・スポーツ復帰の目安
個人差はありますが、下顎の埋伏智歯の外科抜歯は、翌日〜2日の安静が目安です。会議・講義は可能でも、長時間の会話や強い運動は控えると楽です。有酸素運動・入浴の長湯・飲酒は腫れや出血を助長するため48〜72時間は回避を。縫合糸は1週間前後で除去することが多いです。
監修者
伊藤 洋平 | Yohei Ito
明海大学歯学部卒業後、大学病院での研修を経て、複数の医療法人歯科医院にて臨床経験を積む。2017年に「ラウレア歯科矯正歯科クリニック草加」を開院。地域に密着した“予防重視”の診療を軸に、幅広い世代の患者に寄り添う歯科医療を提供している。
【略歴】
- 昭和57(1982)年 青森県青森市 生まれ
- 平成19(2007)年 明海大学歯学部 卒業
- 平成19(2007)年 明海大学病院 研修医
- 平成20(2008)年 同病院 研修修了
- 平成20(2008)年 医療法人豊尋会 霞ヶ関歯科 勤務
- 平成24(2012)年 医療法人社団源会 たのうえ歯科医院 勤務
- 平成29(2017)年 ラウレア歯科矯正歯科クリニック草加 開院
【所属学会】
【資格】
- ・日本顎咬合学会 認定医
【所属スタディグループ】
- ・GO会
- ・いいづな総合歯顎研究会
- ・Think Twice
- ・Takei-Kawazu Japan Dental Study Club
- ・ドミサイル矯正
- ・天王洲小川会
【出版・執筆歴】
- ・平成28(2016)年:デンタルダイヤモンド1月号「他医院で行われたインプラント補綴のリカバリー症例」
- ・GO会30周年記念誌「埋伏歯をMTMを用いて挺出させた1症例」
【学会発表】
- 平成26(2014)年:顎咬合学会ポスター発表「セファロ分析 トレースを極める」
- 平成27(2015)年:顎咬合学会ポスター発表「治療用義歯を用いた上下顎総義歯症例」
- 平成30(2018)年:第8回ワールドデンタルショー出展セミナー「外傷した上顎前歯部に対しMTMを用いた一症例」
【参加講習会】
- ・UCLA「インプラント時代におけるピュア・ペリオ」
- ・SBC(サージカルベーシックコース)
その他多数
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