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根管治療を先延ばしにしないために|草加の歯医者で行う“歯を残す”治療の実際

「痛みが引いたから、もう大丈夫だと思って…」
診療室で何度も耳にする言葉です。むし歯が歯の神経(歯髄)まで進むと、強い痛みを出す時期と、炎症が神経の“活力”を奪って一時的に痛みが引く時期があります。ここで受診が遅れると、感染は根の先や周囲の骨に及び、治療の選択肢が狭くなります。根管治療(こんかんちりょう)は、感染源を取り除き、歯を機能的に保存するための手順です。本稿では、先延ばしのリスク、診断の考え方、実際の治療工程、治療後の歯を長持ちさせるためのポイントまで、院長の視点でわかりやすくお話しします。

 

目次

 

痛みが“消えた”のに危険が残る理由

神経に炎症が及ぶと、拍動性の痛みや夜間痛が出ます。やがて神経の反応が弱ると痛みが軽くなることがありますが、これは「治った」のではなく、防御反応が尽きたサインに近いものです。歯の内部は複雑なトンネル状(根管)で外界と通じやすく、一度細菌が入り込むと、静かに増殖して根の先に病変(黒い影)を作ることがあります。痛みの有無にかかわらず、レントゲンや症状の推移で評価し、必要なら早めに介入することが、抜歯を避ける近道です。

 

抜歯と保存の分かれ目――診断で何を見ているか

保存の可否は、症状だけでは判断できません。視診・打診・温度や電気刺激への反応、歯周組織の状態、噛み合わせの負荷、そしてレントゲンや必要に応じたCTの情報を組み合わせます。特に重視するのは、残せる歯質の量(フェルール)、ひび(クラック)の有無や範囲、根の先の病変の大きさと位置、全身状態です。これらを総合して、「根管治療で機能回復を図るべきか」「外科的な併用が必要か」「残念ながら抜歯が妥当か」を冷静に説明します。保存を選ぶなら、無菌的・確実な手順を守り切ることが前提です。

 

根管治療の実際:感染源の除去と無菌的操作

根管治療の核はシンプルです。細菌と感染物を物理的・化学的に徹底除去し、再侵入を防ぐよう密閉する。ただし歯の内部形態は個人差が大きく、細い側枝や彎曲が複雑に入り組みます。そのため、基本手順を一つも省かずに進めることが成功率を押し上げます。

まず、治療部位をラバーダムで隔離し、唾液や呼気に含まれる細菌の混入を防ぎます。古い詰め物やむし歯を確実に取り除いてから、根管入口を視認しやすい形に整えます。根の長さ(作業長)は電気的測定とレントゲンで確認し、ニッケルチタンの器具などを用いて機械的に感染面を削り取りつつ、根管を滑らかに形成します。同時に、次亜塩素酸系やEDTA系の薬液で化学的洗浄を繰り返し、器具が触れにくい微小部までバイオフィルムを崩します。必要に応じて超音波振動で薬液の行き渡りを助け、細菌数を臨界以下に下げます。

十分に乾燥させたのち、ガッタパーチャとシーラーなどで根管を三次元的に封鎖します。ここまでが「内部の感染コントロール」です。症例によっては、強い急性症状を鎮める目的で、途中に仮封・鎮静期間を挟むこともありますが、仮封の密閉性が破れると逆戻りします。通院間隔や回数の設計は、症状と処置段階に合わせて個別に決めます。

 

治療回数や期間に幅があるのはなぜか

「一回で終わることも、数回かかることもある」――この幅は、感染の広がり、根の形の複雑さ、痛みや腫れの度合い、治療器具に対する反応性など、複数の要因が絡むからです。加えて、無菌的環境を維持したまま各工程を丁寧に完了させるには、時間配分にも余裕が必要です。私の基本方針は、“急がず、滞らせず”。症状が落ち着き、封鎖の条件が整った段階で確実に次へ進めます。

 

「被せるまでが治療」――封鎖と噛み合わせの重要性

根管内の封鎖が良好でも、上にかぶせる修復物が長期にわたり細菌の侵入を防げる設計でなければ再感染のリスクは残ります。大きく削った歯は、咬む力で割れやすくなるため、土台(コア)と被せ物(クラウン)で外から抱える設計が必要になることが多いです。噛み合わせの微調整も重要で、特定の歯に負担が集中すると、ひびや痛みの再発につながります。根管治療は「中の処置」で終わらず、外側の封鎖と力のコントロールまで含めて完結します。

 

再発を防ぐ生活とメンテナンス

治療が終わった歯は、再感染を起こさないことと、破折を避けることが長期保存の鍵です。毎日の清掃で歯と歯ぐきの境目を清潔に保ち、歯ぎしり・食いしばりの強い方はナイトガードで力のピークを逃がします。定期的なメンテナンスでは、レントゲンや触診で根の先の状態、被せ物の適合、噛み合わせの変化を確認します。症状がなくても、年単位での静かな変化が見つかることがあり、早めの微調整が歯を守ります。

 

受診前に院長からお願いしたいこと

視認性のため、ここだけ短くまとめます。

➤ 以前の治療歴や痛みの出方、鎮痛薬への反応を思い出せる範囲で教えてください。
➤ 強い腫れや熱がある日は、無理に本処置へ進めず先に炎症を落ち着かせる計画を一緒に立てましょう。
➤ 治療後は、指示した仮封の期間や食事の注意を守ってください。小さなルールが成功率を押し上げます。

 

まとめ:迷ったら“評価を先に”。最小限で本質的な介入を

根管治療は“最後の砦”ではなく、歯を残すための計画的な介入です。痛みがあってもなくても、疑わしいサインがあれば、まずは現状の把握から始めましょう。保存に値すると判断できる歯には、無菌的操作・丁寧な洗浄・確実な封鎖・適切な被せ物をそろえて臨みます。無理な延命は勧めませんが、残せる可能性があれば、最小限で本質的な治療をご提案します。

 

監修者

ラウレア歯科クリニック 院長 伊藤 洋平

伊藤 洋平 | Yohei Ito

明海大学歯学部卒業後、大学病院での研修を経て、複数の医療法人歯科医院にて臨床経験を積む。2017年に「ラウレア歯科矯正歯科クリニック草加」を開院。地域に密着した“予防重視”の診療を軸に、幅広い世代の患者に寄り添う歯科医療を提供している。

【略歴】

【所属学会】

【資格】

【所属スタディグループ】

【出版・執筆歴】

  • ・平成28(2016)年:デンタルダイヤモンド1月号「他医院で行われたインプラント補綴のリカバリー症例」
  • ・GO会30周年記念誌「埋伏歯をMTMを用いて挺出させた1症例」

【学会発表】

  • 平成26(2014)年:顎咬合学会ポスター発表「セファロ分析 トレースを極める」
  • 平成27(2015)年:顎咬合学会ポスター発表「治療用義歯を用いた上下顎総義歯症例」
  • 平成30(2018)年:第8回ワールドデンタルショー出展セミナー「外傷した上顎前歯部に対しMTMを用いた一症例」

【参加講習会】

  • ・UCLA「インプラント時代におけるピュア・ペリオ」
  • SBC(サージカルベーシックコース)

その他多数

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